「胸がギュッと締め付けられるような感じがした」
「階段を上ると息切れがして、休むと治る」
日常の中で、ふとした瞬間に感じる胸の違和感。「少し休んだら治ったから」「疲れのせいだろう」と、軽く考えて放置していませんか?
実はその「数分で治る胸の症状」は、心臓からの重要なSOSである「狭心症」のサインかもしれません。
狭心症は、心臓に酸素や栄養を送る血管(冠動脈)が動脈硬化などで狭くなり、心臓の筋肉が一時的に酸素不足(虚血)になる状態です。
発作は数分から長くても15分程度でおさまることが多いため、つい様子を見てしまいがちですが、放置すれば血管が完全に詰まる「心筋梗塞」や、突然死の原因となる危険な不整脈につながる恐れがあります。
まさに、狭心症の症状は「命の警告」なのです。
ここでは、見逃してはいけない狭心症の危険なサインと、緊急時の対応について解説します。
【見逃しやすい】狭心症の危険な8つのサイン
狭心症の症状は、「胸が痛い」という典型的なものだけではありません。特に女性や高齢者、糖尿病の方は症状がはっきりしないことも多く、注意が必要です。
1. 胸の中央の「圧迫感」や「締めつけ感」
「針で刺すようなチクチクした痛み」よりも、「胸全体が重苦しい」「ギュッと押さえつけられるような感じ」「焼けつくような感じ」と表現されることが多いのが特徴です。
2. 痛みが肩・腕・顎・背中・喉などに広がる(放散痛)
胸の痛みだけでなく、左肩から腕、顎、背中、喉の奥などに痛みが広がることがあります。「ひどい肩こり」「歯の痛み」と勘違いされるケースも少なくありません。
3. 「胃の不快感」や「吐き気」が主症状になることも
特に高齢者や女性では、胸痛よりも「胃がムカムカする」「吐き気がする」「冷や汗が出る」といった消化器症状が強く出ることがあります。「ただの胃もたれ」と思っていたら、実は心臓の病気だったというケースは珍しくありません。
4. 体を動かしたときに症状が出る(労作性狭心症)
「階段や坂道を上る」「重い荷物を持つ」「寒い日の朝に急いで歩く」など、心臓に負担がかかる動作をしたときに胸が苦しくなり、休むと数分で治まるのが典型的なパターンです。
5. 安静時や就寝中に突然症状が出る(安静時狭心症)
体を動かしていないのに、夜間や明け方の就寝中などに突然胸が苦しくなるタイプもあります。これは冠動脈が一時的に痙攣(けいれん)を起こすこと(冠攣縮)が原因となることが多く、注意が必要です。
6. 痛みの頻度が増えたり、強くなったりする
「以前より発作の回数が増えた」「軽い動作でも症状が出るようになった」「痛みの時間が長くなった」といった変化は、病状が悪化している(不安定狭心症)のサインであり、心筋梗塞の一歩手前の状態とも言えます。早急な受診が必要です。
7. 糖尿病の方は「痛みを感じない」こともある(無痛性心筋虚血)
糖尿病で神経障害が進んでいると、典型的な胸の痛みを感じにくくなることがあります。胸痛がなくても、「息切れがひどい」「異常に疲れやすい」「冷や汗が出る」といった症状がある場合は、心臓の検査を受けることが推奨されます。
8. ニトログリセリンが効きにくい
すでに狭心症と診断され、ニトログリセリン(冠動脈を広げる薬)を処方されている場合、通常は使用して数分以内に症状が改善します。もし薬を使っても効果がない、あるいは効果が不十分な場合は、心筋梗塞などより重篤な状態に進行している可能性があります。
緊急時の対応と受診の目安
狭心症の発作は、適切な対応が生死を分けることがあります。ためらわずに以下の行動をとってください。
救急車(119番)を呼ぶべき症状
- 胸の強い痛みや圧迫感が、安静にしていても5分以上続く
- ニトログリセリンを使っても症状が改善しない
- 冷や汗、吐き気、呼吸困難、意識が遠のく感じが伴う
これらは心筋梗塞を起こしている可能性が高い緊急事態です。自家用車やタクシーで移動せず、すぐに救急車を呼んでください。
早めの受診が推奨される場合
- 体を動かしたときに胸の違和感を繰り返す
- 「なんとなく胸がおかしい」状態が続く
症状が落ち着いている間に、循環器内科を受診しましょう。心電図、心臓超音波(エコー)、冠動脈CTなどの検査が可能な医療機関が望ましいです。
まとめ:「数分で治る」からこそ見逃さないで
狭心症は、心臓が発している「最後のSOS」かもしれません。
「少し休めば治るから大丈夫」という油断が、取り返しのつかない事態を招くこともあります。
特に、高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙習慣、家族歴など、動脈硬化のリスクを持っている方は注意が必要です。
ご自身やご家族に「いつもと違う胸の違和感」があったら、決して放置せず、専門の医療機関に相談してください。その早期の行動が、大切な命と未来を守ることにつながります。
■ 注意事項
このページの内容は、狭心症に関する一般的な情報提供を目的としたものです。胸痛の原因は心臓だけでなく、肺、消化器、筋肉や骨など多岐にわたります。自己判断で放置せず、必ず医師の診断を受けてください。特に強い症状がある場合は、ためらわずに救急要請を行ってください。
■ 参考文献
- 日本循環器学会:慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)
- 日本循環器学会:急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)
- 国立循環器病研究センター:循環器病情報サービス「狭心症・心筋梗塞」