「平日は仕事が忙しくて運動ゼロ。だから週末はジムやスポーツで思いっきり汗をかくぞ!」
健康のために、週末だけでも運動しようという意識は素晴らしいものです。全く運動しないよりは、確実に体に良い効果をもたらします。
しかし、そこに一つだけ、命に関わる大きな落とし穴があります。
それは、「普段動かない人が、いきなり高強度の運動で体を追い込むこと」の危険性です。
実は、激しい運動の直後(特に1時間以内)は、心筋梗塞の発症リスクが一時的に跳ね上がることが知られています。
ある有名な研究では、普段運動習慣がない人が突然激しい運動をした場合、その直後の心筋梗塞リスクは、安静時に比べて数十倍〜100倍規模になるという報告もあります。
なぜ、体に良いはずの運動が、牙を剥くのでしょうか?
それは、心肺機能や血管の準備ができていない状態で急激な負荷がかかることで、「血圧の急上昇」や「心臓への過負荷」が起こり、血管内のプラーク(動脈硬化のコブ)が破裂して血栓ができやすくなるためだと考えられています。
特に血管の老化が進み始める40代以上の方は注意が必要です。
「運動で健康になるつもりが、寿命を縮めてしまった」
そんな悲劇を防ぐために、救命士の視点からまとめた「血管を守りながら運動する7つの鉄則」を必ず押さえておいてください。
救命士が伝える「血管を守りながら運動する7つの鉄則」
1. 強度は「ニコニコペース」を基本に
運動強度の目安は、隣の人と「笑顔で会話できるレベル」(早歩き~軽いジョギング程度)が安全域です。
息がゼーゼー切れて会話ができないほどの強度は、普段運動していない人の血管には負担が大きすぎます。「キツイ=効果が高い」ではありません。まずは安全第一です。
2. ウォーミングアップは「本番」より大事
いきなり走り出したり、試合形式の運動を始めたりするのは厳禁です。
最初の5〜10分は、ストレッチや早歩きなどで体を温め、心拍数と血圧を徐々に上げていくことで、心臓への急激な負担を避け、事故リスクを下げることができます。
3. 「胸の違和感」は即中止のサイレン
運動中に以下の症状が出たら、それは体が発する「危険信号」です。すぐに運動を中止してください。
- 胸の圧迫感、締め付けられる感じ
- 息苦しさ
- 冷や汗、めまい、吐き気
- 顎(あご)、首、背中、肩への広がる痛み
数分休んでも症状が改善しない、強くなる、意識が遠のくような場合は、ためらわずに119番通報を検討してください。
4. 運動前・中・後の水分補給
発汗による脱水は血液をドロドロにし、血栓ができやすい状態を作ります。
喉が渇いたと感じる前に、こまめに水分(スポーツドリンクなど)を補給しましょう。運動前、運動中、運動後それぞれで意識することが大切です。
5. 急に止まらない(クールダウン)
激しい運動を急にやめると、筋肉に溜まった血液が心臓に戻りにくくなり、脳貧血を起こして倒れてしまうことがあります。
運動の最後は、ゆっくり歩くなどして徐々に心拍数を平常時に戻していく「クールダウン(整理体操)」を必ず行ってください。
6. 冬の早朝は避ける(または慎重に)
冬場の早朝など、寒い環境は血管を収縮させ、血圧を上昇させます。
起床直後は体も起きていないため、リスクが重なります。日中の暖かい時間帯を選ぶか、室内で十分に体を温めてから行いましょう。
7. 平日の「ちょこっと運動」で血管を慣らす
週末の運動リスクを下げる最大のコツは、「週末の負荷を“急”にしない」ことです。
「一駅分歩く」「エスカレーターではなく階段を使う」「昼休みに5分だけ散歩する」など、平日に少しでも体を動かす習慣をつけておくことで、血管を運動刺激に慣らしておきましょう。
特に注意してほしい人(リスク因子)
以下の項目に当てはまる数が多いほど、運動時のリスクは高まります。より慎重に「鉄則」を守ってください。
- 40代以上である
- 平日はデスクワークなどでほとんど動かない
- 喫煙習慣がある
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症の持病がある
- 家族に心筋梗塞や狭心症になった人がいる
※高齢者や糖尿病の方は、心筋梗塞の典型的な「胸痛」が出にくいことがあるため、息切れや強い疲労感にも注意が必要です。
まとめ
週末の運動習慣は、決して悪いことではありません。続けることは素晴らしいです。
大切なのは、「自分の血管の状態に見合った強度で行うこと」です。
「準備運動をしっかり行う」「会話できるペースを守る」「平日に少し負荷を分散させる」
この意識を持つだけで、運動はあなたの命を脅かす敵から、健康を守る強力な味方に変わります。
安全に楽しく、運動習慣を続けていきましょう。
■参考文献
- Mittleman MA, et al. Triggering of acute myocardial infarction by heavy physical exertion. Protection against triggering by regular exertion. N Engl J Med. 1993 Dec 2;329(23):1677-83. doi: 10.1056/NEJM199312023292301.
- Dahabreh IJ, et al. Association of episodic physical and sexual activity with triggering of acute cardiac events: systematic review and meta-analysis. JAMA. 2011 Mar 23;305(12):1225-33. doi: 10.1001/jama.2011.336.
- 健康長寿ネット(公益財団法人長寿科学振興財団):運動と心臓病